いろいろ詩のこと

人種差別と戦うミャンマーのポエトリーリーディング

日本では詩の朗読会を様々な都市で開催されています。近年の詩の朗読会の形式はヒップホップやビートニクの影響をうけています。それは日本だけではありません。

今日はミャンマーで開催されている詩の朗読会を紹介します。

ミャンマーの首都ヤンゴンで2016年から開催されているSlam Express。主催するのはビルマの若い詩人、Than Toe AungさんとAung Kaung Myat さん。Than Toe Aungさんはイスラム教徒、Aung Kaung Myat さんは仏教徒です。

日本のほぼ二倍の面積の国土のミャンマーの人口は5000万人。150を超える民族が暮らしています。85%以上が仏教徒の国で少数派のイスラム教と仏教徒が一緒にイベントを開催する。この意義を紹介する記事を読んだので紹介します。

日本も無縁でないミャンマーの宗教・民族差別

ミャンマーでは仏教徒に対し、イスラム教徒は差別されています。ミャンマー政府が公式に認める民族は153。その中に近年、虐殺の報道が入ってきたロヒンギャは入っていません。イスラム教徒の中でミャンマーの国民だとされているのはごく一部。彼らは「ベンガル人」という枠付けとなっており、「カラー」という蔑称をつけられています。

この話はミャンマーの他にインドそしてバングラデシュという隣国。そしてイギリスと日本が関わっています。

ミャンマーでは、イスラム教は近代帝国主義の結果としてミャンマーに流入してきた、とされています。十九世紀、イギリスがミャンマーの一部を割譲させ、支配した結果、商取引をするために移住したインド・ベンガル地方の人々が信じていたからです。

実際は十五世紀ミャンマーを支配した王朝ではイスラム教徒は住んでいたし、時代によってはミャンマーの王朝がベンガル地方を支配していたこともありました。

しかし、対立が鮮明になったのは第二次世界大戦。その裏にはビルマを攻略した日本も関わっていました。日本軍は仏教徒を武装させることでインドへの侵攻を謀ったのに対しイギリスはインドとの近縁からイスラム教徒を武装させて防衛に巻き込みました。

宗教対立を煽られた結果、仏教徒とイスラム教徒は60,000-を超える死者を出し、現代に続く紛争の火種を残しました。ビルマにおける日本軍のトップはインパールで多大な死を日本にもたらすだけでなく二十一世紀における紛争の火種も残していったのです。

その後、ミャンマー、インドそしてベンガル地方を支配するバングラデシュ三つの国の政治の混乱の中、特に、ラカイン州のイスラム教徒は三国いずれからも自分の民族だと認められず、難民となっています。彼は自分たちのことを1950年代からロヒンギャと呼んでいます。しかしながら、ミャンマー政府は彼らの意思自体を認めていない、という現状です。

現在のミャンマーの行政などで使う身分証明書には、本人が属している民族と宗教が明記されています。ミャンマーで生きている限りにおいて、彼らは差別から逃れることはできないのです。

と要約しただけで長くなりました。詳しくは上智大学で現代ビルマを研究する根本敬さん  の記事「5問でわかる「ロヒンギャ問題とは何か?」スーチー氏が直面する壁」などをご参照ください

人種差別への怒り、海を越える

Slam Expressを主催するThan Toe Aungさんは27歳のイスラム教徒です。人権について研究し、九州大学でも学んでいた学生でもありました。

社会問題に訴えかける手段として彼が注目したのはアメリカ合衆国の朗読。Porsha Olayiwolaさんの詩「Angry Black Woman」でした。

私はキレてるんだ。私は怒っているんだ、
すべてにたいして
すべての与えられた時間と与えられたものにたいして。
私、つまり黒人女は
レイシズムにも性差別にもホモフォビアにも階級主義にもさらされるんだ。
 
私は犯され、なぐられ、生きたまま焼かれ、そして誰一人、
私がこの宇宙から消えるのを認めることへ敬意を払うただ一つの魂すらないんだ
それは私が取るに足らないからだ、
それは私が黒人女だからだ。
 
そうだからこそついに、わかるでしょう、私はキレる権利を十全に持っている。
 
(「Angry Black Woman」より部分訳)

黒人であり、女性であり、そして同性愛者として、マイノリティの怒りをあらわにするOlayiwolaさんの朗読をThan Toe AungさんはYouTubeで見ました。

そして、彼は自分自身の行動方法としてポエトリーリーディングの開催を決意し、何人かの詩人とともにイベントを開催します。彼が開催したイベント、Slam Expressはミャンマーで話されている言葉と英語の詩が朗読されているそうです。

人種差別のない世界を目指して

Slam Expressの開催を続ける中、2018年1月Than Toe Aungさんは警察に捕らえられ、全身を殴打されます。
Than Toe Aungさんは警察に暴行された自分の体を写真でtwitterに投稿することを通じ、世界に対しミャンマーの実態を訴え、その写真を拡散させました。
彼と彼の同志が目指すのは人種差別のない社会です。

Than Toe Aungさんと仏教徒の詩人Aung Kaung Myatは二人で呼びかけるような詩、「It Starts with You」をYouTubeに英語で投稿しています。
簡単な言葉で伝える差別の実情と、目指していく「レイシズムに対し手を取り合う」世界が爽やかに現れています。

映像の左がThan Toe Aungさん。右がAung Kaung Myatさんです。

君からはじめるんだ Aung Kaung Myat & Than Toe Aung  
 
 
(Aung Kaung Myat 以下A)  
五歳のとき  
肌のくろいインド人みたいな男の子が教室で僕のとなりだった  
誰も彼と座りたがらなかったから。  
家に帰ってから親に聞いた「どうして?」  
 
(Than Toe Aung 以下T)  
五歳のとき  
先生が僕を嫌っているのを知った。  
彼女は僕によくしてくれなかったし軽蔑の目で見ていた  
だから親に聞いた「どうして?」  
 
(A)  
親は言った。「男の子は私たちとは違う。  
カラー(インド系)なんだ」  
 
(T)  
親は言った。「気にするな。勉強だけすればいい」  
でも疑問は僕の中でくすぶった。  
「どうして?」  
 
僕たちがムスリムだから?  
 
(A)  
彼らがムスリムだから。  
彼らはすべからく虐待と差別の下にあり  
この社会で私たちが生きていくのに後ろめたいことはなにもない。  
 
(T)  
身分証明書は明白に宗教をしめしている  
 
(A)  
教科書は学校教育を通して  
ビルマ人がいかに偉大であり仏教がいかに偉大かを説いている  
 
(T)  
政府が公式に認める135の民族から中国人とインド人は意図的にのぞかれている  
 
(A)  
国民の意識として宗教と宗教は孤立させられている  
 
(T)  
群衆の攻撃と暴動がそこらじゅうで起きている。  
 
(A&T)  
子供のように僕は問いかける「どうして?」  
 
(A)  
どうして僕の友達のことをみんな化け物のように見るんだ。  
 
(T)  
どうして先生が同級生のように僕におもいやりと愛情を見せないんだ。  
 
(A&T)  
だから今夜、僕は君に伝えることにした。  
 
(A)  
僕は君に伝えることにしたんだ。  
 
「宿主」  
 
(T)  
「寄生虫」  
 
(A)  
と彼らがきれいなレッテルを貼ったことで  
 
(A)  
人々の考え方が変わり  
僕はビルマのレイシズムが何十年も続いたと伝えることにした。  
政治家を含むだれひとり変えようと思ったことがないと伝えることにした。  
 
(T)  
恐怖の中で生きることについて私は伝えることにした。  
ナショナリストが家を焼き家族を殺すと脅すことを。  
 
(A)  
仏教徒に生まれたかムスリムに生まれたかを聞く必要はないと私は伝えることにした。  
 
(T)  
DNA検査を受けたとしても純粋な人種なんてありえないと私は伝えることにした。  
 
つまり、ビルマでの仏教徒とは  
 
(A)  
仏塔の前で文句をつけられることなく物を売ることができるということだ。  
僧侶たちに殴られ、  
自分の意思に反してつかまるムスリムたちと違うということだ。  
 
(T)  
収容所から一歩も出られないラカイン州のムスリムと違い何処へでもいけるということだ。  
 
(A)  
つまりそれが…仏塔の前で文句をつけられることなく物を売ることができるということだ。  
 
(T)  
君が学んだ宗教のせいにして  
ならず者が君の家に火をつけることがないということだ。  
 
(A&T)  
君が宗教のために人に危害を与えるというのなら  
やめてくれ  
 
(T)  
君は信教の自由を攻撃しているんだ  
 
(A)  
それは国会で認められているんだ  
 
(A&T)  
やめてくれ  
 
(A)  
君は私たちが社会で手を取り合うための  
多様性の美しさを攻撃しているんだ。  
 
(T)  
やめてくれ  
君は民主主義の基本原則を攻撃しているんだ  
 
(A&T)  
レイシズムに対して手を取り合うんだ。  
 
私たちの文明的な社会にレイシズムの居場所はないと伝えるんだ。  
 
いまはじめるんだ、君からはじめるんだ

二人の詩を読みながら改めて差別は理不尽な力で起きることを考えます。
そして、この理不尽さはけして目に見えるものだけではないのだと感じます。

私は自分の触れることができる限られた世界で争いが起きるのは望まないし、もっと望まないのは誰かを差別すること生活が成り立つ世界です。
Than Toe Aungさん、そしてその他の人種差別へ挑む人々を応援します。
そして、一つ一つの活動の紹介が、何かにつながることを願っています。

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てわたしブックスの管理人です。