いろいろ詩のこと

ウクライナの戦争の詩 1 アナスタシア・アファナシエワ

「彼女は言う」 アナスタシア・アファナシエワ

彼女は言う

私達の建物にはしっかりした地下室がなかったから

私は離れなければならなかった、隠れられないから

私達は一週間ずっと離れられなかった

男たちが私達を肘で押しのけた

私達は弱くなり、いられる部屋もない

かつて私達が考えていたのはよい家具のことや

住心地をよくしたいといったこと

いま私達が考えるのは

私達の地下室が役立たずで

私達を守ってくれず、私達の上に崩れ落ちること

外で座っているよりなお悪い

 

私達はマットレスと枕を直に床へとひきずって

すべてが始まるやいなや倒れ込めるようにした

私達は倒れて横たわった

 

夫は残った

家にいなければならない誰かのところに

そうでなければ帰る家はなかっただろう

どうあっても戻る方法はないはず

中に入り私達のものを持っていく人が出ないよう

夫は私達のアパートを見ている

夫は週に一度どこか背の高い

手品みたいに携帯の電波を拾える場所から電話する

夫は数えるほどの単語を話し電話を切る

僕は生きてる

次の日曜にかけなおす

 

迫撃砲を積んだ車が

道を通ったとき

私達は誰かと問わなかったし

どちらについているのかも問わなかった

私達は床に倒れ横たわった

 

市場への道すがら

銃撃が私達の頭上で響いた

私達はバッグひとつでここにたどりついた

人にすら十分な場所はなかったし、荷物はなおさら

 

彼女が語るさまは

八月の風が

部屋に吹き込むかのようだ

庭では

同僚たちが熟れすぎた

プラムを集めている

去年は取れ頃だったのに

今年

私達は収穫を逃してしまい

今となっては遅すぎる

 

私は耳を傾ける、そして知らない

天国と地獄が本当に存在し

旅によって分かたれなければならないのか

人々をいっぱいに詰めたミニバンで

だまってプラムが熟し

人々が希望を失う

こういった瞬間を私達は

死のあとに体験しているのかを

 

(原文はロシア語。

 オクサーナ・マクシムチュク(Oksana Maksymchuk)・マックス・ロソチンスキ(Max Rosochinsky)の英訳より山口勲訳)

作者について

アナスタシア・アファナシエワ

1982年ハルキウ生まれ。詩人、精神科医。

2003年に出版した第一詩集がロシアでDebut Prizeの候補。

“Russian Prize” (2006)・“LiteratureRoentgen” Prize (2007)などを受賞。

2022年のロシア軍による侵攻開始時点もハルキウ在住。

ウクライナの2014年から始まる戦争の詩について

2014年から続くロシア共和国のプーチン政権による、ウクライナ領土への蚕食をめぐりウクライナに住む詩人が書いた詩を、アメリカ合衆国で編集されたアンソロジー「Words for War: New Poems from Ukraine 」(Oksana Maksymchuk and Max Rosochinsky編集 Boston: Academic Studies Press, 2017、以下 Words for War)から紹介しようとおもっています。
 
詩を投稿する前に少し書きます
 
この詩集は、1945年から80年代にかけてウクライナで生まれた16人の詩人の作品と、作品を読むための用語集で編まれています。オデッサ出身のアメリカ合衆国の詩人、イリヤ・カミンスキーさんがエッセイを寄せています。
オリジナルの詩はウクライナ語もしくはロシア語で書かれたものです。
 
私は日本国のほとんどの人と同様、ウクライナについて学んだことはありません。2022年2月のロシア軍による全面侵攻にいたるまで、ウクライナとロシアの範囲もよく知りませんでした。
 
侵攻の前段にあたる、2014年に親ロシア政権を退陣させたマイダン革命について、また、旧ソ連がウクライナ人を何百万も虐殺してきたことですら、今回学んだことばかりです。
  
私が今回「Words for War」を手に取ってしまったのは偶然でした。2月26日にLos Angels Review of Booksでウクライナの戦争詩が英訳されていることを知り、Amazonで搜すと「Words for War」が一冊日本に在庫があるとのこと。

遠い昔に誰かが注文してキャンセルしたものが長く在庫にあったとしか思えません。Academic Studies Pressという出版社名とはどう考えても身分不相応な家に本はやってきました。
 
詩集をめくって改めて気づいたのは詩が映像と異なる声を伝えていること。その声の底に、戦争のない日々への渇望が現れていることでした。
ロシア語の詩とウクライナ語の詩が入り交じる、ウクライナの文学の姿にも驚かされました。
 
そしていま驚愕するのは、このとき戦争の非日常性を書いた人たちが、それを上回る流れで戦争に関わらざるを得なくなったことです。
ロシア・ウクライナ・ベラルーシは一つでなければならないという、戦前の日本を思わせる妄念につきあわされて空爆や戦闘にさらされ、心身を束縛されることに驚きました。
 
 
私は今回のプーチン政権による蛮行に対し、イスラエルによるパレスチナへの侵攻と同じ態度で反対します。歴史を書き換える意図を持ち、物量をもとに、他の主権の中にある人を鏖殺するだけでなく、自分たちを騙す行為に反対します。
 
そして、思いました。
詩集に収められた詩は、けして、書かれたくて書かれたのではなく、書かざるを得ず書かれたのだと。戦場を感じる必要のない多くの日々が詩人にはあったはずです。その本来の穏やかな生活と詩の距離に触れて、すこしでも、遠くまで詩をシェアくださるとうれしくおもっています。

Words for Warに掲載された詩や作者の紹介は、Academic Studies Pressのサイトにて読むことが可能です。


また、翻訳に際してはAcademic Studies Pressに確認し、CC-BY-NCライセンス(表示-非営利)にて行われている英訳から実施しています。私の訳も同様にCC-BY-NCライセンスにて取り扱い願います。

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